解説

『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』は、デヴィッド・ボウイが創り上げたロック界で最も洗練された自己神話化プロジェクトの一つである。このアルバムでは、セクシーでキャッチーなグラムロックを象徴する救世主「ジギー」を通じて、社会、資本主義、個のアイデンティティに対する鋭い視点を描き出している。ブルースやポップ、サイケデリックが絶妙に融合した音楽で、彼自身の象徴的ペルソナを中心に展開する物語を具現化した。

代表曲「Ziggy Stardust」や「Hang On To Yourself」では、社会の崩壊とスターの自己消費をテーマに据えた。グラムロックを新たな高みに押し上げたその歌声と作曲は、後のロック界やカルト的なファンベースに大きな影響を与えた。

アルバムは、多くのインスピレーションを基に作られている。その一つである、ナチスにより禁止されたブレヒトとヴァイルのオペラ『マハゴニー市の興亡』は、資本主義批判とジャズの融合を提示し、ボウイの創作にも大きな影響を与えた。さらに、本作を補完する1979年のドキュメンタリー映画は、彼の音楽的旅路を記録する重要な作品となった。

2017年に本作が「National Recording Registry」に選出された事実は、アメリカにおける音楽的意義を裏付けるものである。この選出には、1973年のハマースミス公演でボウイがジギー・スターダストのキャラクターを引退する場面が収録されている。この公演での「Rock ‘N’ Roll Suicide」のパフォーマンスは、彼の象徴的瞬間の一つとして今なお語り継がれる。

このアルバムが名作とされる理由は、その楽曲が感情的・音楽的なインパクトを持つ点にある。『Five Years』『Starman』『Suffragette City』といった楽曲は、鮮烈なメロディーとメッセージ性で幅広い聴衆を魅了した。一方で「ロックンロールの模倣者」や「舞台役者的なヴォードヴィリアン」と評価されたボウイの進化を示す作品でもある。

このアルバムは音楽を超えた文化的作品である。1972年のグラムロックの全盛期において、ジェンダーや性的アイデンティティの揺らぎを提示し、「僕はゲイだ」との宣言で社会に衝撃を与えた。その曖昧さと多面的スタイルは、聴衆をより強く魅了する要因となった。さらに、ミック・ロンソンとの音楽的協力がアルバムを形作る重要な要素であり、そのドラマチックなパフォーマンスは強烈な印象を刻み付けた。

『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』は、現在もなお聴衆を引き付ける存在である。このアルバムの意義は音楽だけでなく、文化やジェンダーに及び、その遺産はロック界の進化の象徴として永久に刻まれている。

トラックリスト

1　Five Years
2　Soul Love
3　Moonage Daydream
4　Starman
5　It Ain’t Easy
6　Lady Stardust
7　Star
8　Hang On To Yourself
9　Ziggy Stardust
10　Suffragette City
11　Rock ‘N’ Roll Suicide