
解説
カナダ出身のポストロックバンド、Godspeed You! Black Emperorのアルバム「Allelujah! Don’t Bend! Ascend!」は、約10年の活動休止を経て2012年にリリースされ、大きな注目を集めた。このアルバムは、20分以上の大作2曲と短いドローントラック2曲で構成され、バンドの過去と現在を巧みに融合している。多くの批評家が、このアルバムの社会的・政治的背景や音楽的進化を評価しつつ、これが現代におけるバンド再結成アルバムの模範例であると絶賛している。
まず、彼らが再結成後の最初のアルバムで見せた音楽は、過去の未完成作品を完成させ、ライブで鍛え上げた楽曲を含む決定版となっている。代表曲「Mladic」は中東的な音楽要素を取り入れ、繰り返しと重厚な編曲で圧倒的なカタルシスを提供。一方で「We Drift Like Worried Fire」はダイナミックな構造と感情的な高揚を見せ、バンドが持つドラマチックな魅力をさらに際立たせている。これらは両方ともライブで既に披露されていたが、録音作品として新たな形で結実した。
また、アルバム全体の流れは、構築的なドローンサウンドが重要な役割を果たしている。「Their Helicopters’ Sing」や「Strung Like Lights」は、細部に至るまでバンドの革新的なサウンドへの追求が感じられる楽曲であり、特にフィードバックやアコーディオンを活用したテクスチャが独特だ。これらは、聴く者に強い没入感と情緒的な共鳴を与える。
社会的・文化的視点からもこのアルバムは評価されている。リリース当時、政治的・経済的な不安や社会的な動乱が続く中、Godspeed You! Black Emperorはその音楽を通して時代の空気を反映しつつ、希望と不安、破壊と再生をテーマにした抽象的な美しさを提示している。特に、批評家は彼らのアナーキズム的視点や、直接的な主張を避けつつもメッセージ性を帯びた音楽性を称賛した。インストゥルメンタルという形式が、この普遍的なテーマに対する解釈の余地を聴き手に残している点も、高く評価される要因だ。
再結成というタイミングの妙も注目に値する。音楽業界が短命の流行に追随する中、Godspeed You! Black Emperorは彼ら独自のペースを守り続けており、その姿勢はリスナーの信頼を集めている。例えば、匿名性を貫きながらも、自身の音楽の核心を揺るがせず、その価値を維持している点は特筆に値する。このアルバムのマーケティングも、意図的に最低限に抑えられており、それがかえって多くの関心を集める結果を生んだ。
音楽的影響という観点では、Godspeed You! Black Emperorは同時期の他のバンドに決して追随せず、彼ら独自のスタイルを完成させてきた。「Allelujah!」では、SwansやEnnio Morriconeの影響を感じさせながらも、それを超えたオリジナリティを放つ。一方で、彼らの楽曲はリスナーにとって非常に個人的な体験を提供する。例えば、壮大なサウンドスケープは日常的な感情やシーンに重ね合わせて聴かれることで、一人ひとりに異なる意味を持つ。
批評家たちはこのアルバムを、過去作『Yanqui U.X.O.』や『F#A#∞』との対比で評価することが多い。特に、2002年の『Yanqui』は商業的成功やプロモーションに対して反抗的な作品だったが、「Allelujah!」はその遺産を引き継ぎつつ、現代の聴衆に対してより明確なメッセージを発信しているとも解釈されている。また、初期の「ポストロック」と呼ばれるジャンルを革新してきた功績をさらに押し進めており、その点でも称賛される。
このアルバムが放つ力強さと深い感動は、Godspeed You! Black Emperorが持つユニークなビジョンと音楽的卓越性の証拠である。彼らはリスナーに、人間の存在や社会の根本的なテーマに目を向けさせ、なおかつ音楽そのものの美しさに没頭させる。このアルバムは、バンドの真骨頂を示すとともに、その時代性を超えた価値をも証明している。
トラックリスト
1 Mladic
2 Their Helicopters Sing
3 We Drift Like Worried Fire
4 Strung Like Lights At Thee Printemps Erable

