
解説
Godspeed You! Black EmperorのEP『Slow Riot for New Zero Kanada』は、バンドの特異な音楽的世界観を30分に凝縮した傑作であり、ポストロックの代表的な作品の一つと評価されている。この作品は、1999年にConstellation Recordsからリリースされ、バンドの確立した音楽的アイデンティティを示す2曲で構成されている。
A面の「Moya」は、上昇音階と弦楽器、シンバルの融合による緊迫感のあるビルドアップが特徴で、8分で壮大なクライマックスを迎える。静寂の中で始まり、劇的な展開を遂げるこの曲は、神秘的で悲壮感に満ちている。一方、B面の「BBF3」は18分にも及ぶ長尺の楽曲で、フィールドレコーディングされた独白をフィーチャーしている。ブレイズ・ベイリー・フィネガン3世による狂気じみたスピーチを背景に、弦楽器とギターが複雑な感情の波を織り成す構造が展開される。この楽曲の終盤は激しいクレッシェンドを迎え、その後静かに消えゆくコーダで収束する。この2曲により、社会的混乱や個人的な苦悩がダイナミックに表現されている。
本作はポストロックジャンルの枠組みを超えた音楽的探求であり、静けさと轟音の間に内包された緊張感を繊細かつ壮大に描き出している。スプートニクミュージックの批評家は「最高のEP」と評し、特に「Moya」の劇的な展開や「BBF3」の語りを伴う構造を絶賛している。また、ピッチフォークの批評家は「絶妙な音響設計と圧倒的な音の攻撃」と表現し、同時期のバンドとの比較を拒絶するほどその独自性を称えた。NMEはこの作品を「感情的ドキュメンタリー」と位置付け、ヘブライ語で書かれた歌詞や録音された独白に象徴される終末論的テーマを掘り下げた。
このEPにはメロディアスでありながらダークな雰囲気が溢れている。ストリングスやグロッケンシュピールなど多種多様な楽器を組み合わせ、複雑な音響世界を生み出す手法は他に類を見ない独創性を持つ。中でも「Moya」は絶望と歓喜の感情を往復させ、「BBF3」ではフィネガンの怒りの独白がトラックの核となり、絶え間なく変化する楽曲構造がバンドの音楽的ビジョンの深さを物語る。本作の音楽は、ベートーベンの第9交響曲に例えられるほど高い評価を受け、暗闇の中で見出される微かな光と呼応している。
Godspeed You! Black Emperorの特徴である広がりと緻密さを体現したこのアルバムは、荒廃した都市風景や社会的な疎外感を視覚的にも音楽的にも表現している。その録音はトロントのガス・ステーション・スタジオで行われ、廃墟や焦げた貨車などの風景が楽曲にインスピレーションを与えたと言われる。この音楽は単なる背景音楽ではなく、聴者を孤独や希望の境界線に導く、言葉以上の語りを持つ芸術的体験となっている。オールミュージックでは、「恐怖と勝利の感情が交錯するアルバム」と評され、社会的・個人的な主題が複雑に絡み合う作品として高く評価された。
『Slow Riot for New Zero Kanada』は、その形式や手法においてポストロックの進化を先導するとともに、リスナーに深い感情的および知的影響を与える作品である。
トラックリスト
1 Moya
2 BBF3

