
解説
カナダのポストロックバンドGodspeed You! Black Emperorによるデビューアルバム『F♯ A♯ ∞』は、暗黒的で崇高な芸術作品として多くの批評を集めてきた。この作品は、インストゥルメンタル音楽、フィールドレコーディング、語りの断片、テープループなど多様な要素を組み合わせ、終末世界の風景を描いた没入感のあるアルバムだ。その音楽的アプローチとアルバム全体の構成は、リスナーに世界の終わりを生々しく体感させる。以下に、その批評やアルバム構成の主要ポイントをまとめる。
アルバムの最大の特徴は、クラシック音楽の楽章を思わせる長大なトラックと、ポストロック特有のボーカルレスの構成。音楽自体は終末を思わせる情景を描き、暴力的な混沌と儚げな美しさが交錯する。例えば、オープニングの「The Dead Flag Blues」では語りと音楽が完璧に融合し、鉄道の音や哀愁のバイオリンなどが組み込まれ、退廃的な旅を誘発する。一方で、「East Hastings」では説教師の声と不安を煽る音楽が対比され、リスナーを終末への恐怖に引きずり込む。「Providence」に至ると、沈黙と爆発的な音楽の波がリスナーを完全に飲み込む。
批評家たちはこの作品が単なるポストロックの枠を超えた、独自の終末的体験を提供していると評する。あるレビューでは、アルバムが聞く者を世界崩壊の風景へと誘い、混沌の中にかすかな希望と美しさを描くことに成功していると述べている。バイオリンやチェロ、木琴など多様な楽器が音楽に広がりを与え、各トラックがそれぞれ完結した物語を形成しつつも、全体的なテーマを強調する構造が絶賛される。
一方で批評家たちは、この作品がすべてのリスナーにとって聴きやすいものではないことも認めている。特に、長時間の楽曲とボーカルの不在は一部のリスナーには難解に感じられるかもしれない。しかし、時間をかけて耳を傾ければ、細やかな音響効果や壮大な構成による深い体験が広がり、この作品がなぜ音楽史において重要な位置を占めるのかが理解できるだろう。
このアルバムは、音楽だけでなくその制作背景も注目に値する。1997年、モントリオールのHotel2Tangoで録音されたこの作品は、DIY精神と集団芸術としての音楽制作を体現したものだ。オリジナルのLP版は500枚限定でプレスされ、手作りのアートワークが特徴。その後も、何度も再版されながら、当初のパッケージングが保存されてきた。こうした細部へのこだわりも、ファンや批評家に高く評価される理由の一つである。
また、このアルバムはリスナーを黙示録的世界観に没頭させるという目的を果たす。モノローグと音楽が終末の景色を生々しく描き出し、アルバムタイトルに含まれる「∞」のシンボルは無限に続く終末的サイクルを暗示している。この作品が放つ力強いビジョンは、多くの批評家が「黙示録のサウンドトラック」と形容する所以である。
総じて、『F♯ A♯ ∞』はリスナーを世界の終わりへと連れていき、恐怖、不安、美しさ、そして最後の希望までも描き出す超越的な体験を提供するアルバムだ。この大胆で革新的な作品はポストロックジャンルの金字塔とされ、今なお多くの人々に深い影響を与え続けている。
トラックリスト
1 Nervous, Sad, Poor…
-The Dead Flag Blues (Intro)
-Slow Moving Trains
-The Cowboy…
-Drugs in Tokyo
-The Dead Flag Blues (Outro)
-Untitled
2 Bleak, Uncertain, Beautiful…
-…Nothing’s Alrite in Our Life… / The Dead Flag Blues (Reprise)
-The Sad Mafioso…
-Kicking Horse on Brokenhill
-String Loop Manufactured During Downpour…

