解説

JPEGMAFIAの2枚目のスタジオアルバム『Veteran』は、彼の音楽的、政治的、文化的背景を織り交ぜた傑作である。このアルバムは、彼の空軍での任務や海外生活という経験を反映し、退役軍人であることを象徴している。実験的な要素と自主制作の精神が全編に貫かれ、プロダクションからミックス、マスタリングまですべてジェイペグ自身が担当した。

音楽的には、前作『Black Ben Carson』での過激なノイズを一部抑え、よりメロディアスで実験的なサウンドを取り入れている。「Real Nega」ではオール・ダーティー・バスタードのサンプルを効果的に使用し、サウンドデザインの新たな地平を切り開いた。また、「Baby I’m Bleeding」や「Panic Emoji」などでは荒々しいディストーションや断片的な音の配置が緊張感を生んでいる。

アルバムは政治、ポップカルチャー、人種、都市再開発、インターネット文化など多岐にわたるテーマを扱う。「Williamsburg」では都市再開発の冷たく工業的な空虚さを表現し、「Thug Tears」では情熱的なボーカルとラップを交錯させ、リスナーを引き込む。一貫して強烈なメッセージが込められており、彼のリリックは鋭い批評と皮肉に満ちている。

N.W.A.の政治的挑発を彷彿とさせる一方で、彼はインターネットネイティブの視点から社会批評を展開。ロサンゼルスを拠点としながらも、ボルチモア時代に培われた音楽的背景がスタイルを形作り、特にボルチモアクラブのテンポやエネルギー感が大きな影響を与えている。

彼のテンポの速さと工業的なサウンド操作の巧みさはアルバムの基盤となり、リズミカルでありながら混沌としたサウンドスケープを構築している。この作品は、リスナーに白熱した体験を提供し、混沌と整合性を絶妙に融合させた傑作である。

本作は革新性と強烈なメッセージでPitchforkやネット音楽評論家アンソニー・ファンターノがその魅力を評価している。粗削りな音楽的要素がむしろ魅力を強化し、実験音楽とヒップホップの新たな可能性を提示する作品となった。

アルバムの核にあるのは、混沌としたインターネット時代における彼自身の体験と世界観である。この作品は単なる音楽アルバムを超え、文化的・政治的批評の場としても機能している。JPEGMAFIAは、どのシーンにも属さず、独自の道を切り開く存在感を放つアーティストである。

『Veteran』は現代のヒップホップと実験音楽の重要な橋渡しとなる作品として位置づけられる。リリースから現在に至るまで多くの議論と称賛を呼び、リスナーに新たな視点を与える。音楽的野心と鋭いメッセージが融合したこのアルバムは、JPEGMAFIAの名声を不動のものとした。

トラックリスト

1　1539 N. Calvert
2　Real Nega
3　Thug Tears
4　Dayum
5　Baby I’m Bleeding
6　My Thoughts On Neogaf Dying
7　Rock N Roll Is Dead
8　DD Form 214
9　Germs
10　Libtard Anthem
11　Panic Emoji
12　DJ Snitch Bitch Interlude
13　Whole Foods
14　Macaulay Culkin
15　Williamsburg
16　I Cannot Fucking Wait Until Morrissey Dies
17　Rainbow Six
18　1488
19　Curb Stomp