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Black Country, New Road Ants From Up There

解説 『Ants From Up There』は、イギリスを拠点とするブラック・カントリー、ニュー・ロードの2…

解説

『Ants From Up There』は、イギリスを拠点とするブラック・カントリー、ニュー・ロードの2作目のアルバムであり、2022年2月にリリースされた。実験的でポストロック的なこのバンドは、音楽的に新たな方向性を模索しながら、フロントマンであるアイザック・ウッドの突然の脱退を乗り越えて本作を完成させた。アルバムの背景、テーマ性、音楽の美しさ、意図的な進化は高く評価され、多くの評論家から称賛を受けている。

デビューアルバム『For The First Time』は、自由奔放なエネルギーと実験的なスタイルで注目を浴びたが、『Ants From Up There』では、そのスタイルをさらに成熟させた。この作品では、クラシック、ミニマリズム、インディ・フォーク、ポップ、オルタナティブ・ロックの要素が融合し、より感情的なアプローチが取られている。親しみやすさと洗練されたサウンド、複雑な楽曲構成が特徴で、評論家からは「壮大かつ胸に迫る」と評された。

ウッドの震えるようなボーカルと詩的な歌詞は、アルバムの中心を成している。彼の歌詞は、人間関係、逃避、孤独といったテーマを深く掘り下げ、「Good Will Hunting」ではビリー・アイリッシュを空虚さの象徴として取り上げ、「Concorde」では喪失の哀悼、「Basketball Shoes」では感情の爆発を壮大に描き出している。これらにより、アルバム全体がひとつの物語のようなまとまりを見せている。

音楽的にも、多層的なアレンジがアルバムの魅力を高めている。イントロを飾るサックスとバイオリンの嵐、「Chaos Space Marine」のエネルギーに満ちた爆発、「Mark’s Theme」の温かなサウンドスケープなど、各曲が独自の物語を紡いでいる。後半では「The Place Where He Inserted The Blade」や「Snow globes」、そして12分間に及ぶ壮大なフィナーレ「Basketball Shoes」で、クライマックスに向かう盛り上がりが圧巻だ。

アルバムの重要なテーマのひとつは「逃避」であり、ファンタジーと現実を超えたイメージが散りばめられている。ウッドの脱退がもたらした感情的な重みは音楽や歌詞に色濃く反映されており、その影響もまた作品の深みを増している。リードボーカリストを失った後のバンドの進化は未知数だが、『Ants From Up There』は彼らが新たな道を模索する出発点であると言える。

総じて、『Ants From Up There』は音楽的・感情的に深みのある傑作である。この作品は、2022年の最重要アルバムのひとつとされ、時間を超えて愛されるクラシックとなる可能性を秘めている。このアルバムが単なる音楽作品ではなく、作曲者、演奏者、そしてリスナーを感動的な物語で結びつけるからである。

トラックリスト

1  Intro
2 Chaos Space Marine
3 Concorde
4 Bread Song
5 Good Will Hunting
6 Haldern
7 Mark’s Theme
8 The Place Where He Inserted the Blade
9 Snow Globes
10 Basketball Shoes