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ロリータ

監督 スタンリー・キューブリック 脚本  ウラジーミル・ナボコフ 原作  ウラジーミル・ナボコフ 製作  ジェ…

監督 スタンリー・キューブリック

脚本  ウラジーミル・ナボコフ

原作  ウラジーミル・ナボコフ

製作  ジェームズ・B・ハリス

音楽  ネルソン・リドル ボブ・ハリス

撮影  オズワルド・モリス

編集  アンソニー・ハーヴェイ

製作会社 メトロ・ゴールドウィン・メイヤー
     セヴン・アーツ・プロダクションズ
     AAプロダクションズ
     アニヤ・ピクチャーズ
     トランスワールド・ピクチャーズ

配給 メトロ・ゴールドウィン・メイヤー

主演 ジェームズ・メイソン
   スー・リオン

助演 ピーター・セラーズ

1962年 152分

解説

「ロリータ」は、ウラジーミル・ナボコフの傑作を基に、スタンリー・キューブリックが映画化した作品である。この映画は、道徳的・芸術的に物議を醸すテーマを描きながら、独自の美学と技術を駆使して観客に強烈な印象を与える物語である。

主人公ハンバート・ハンバート(ジェームズ・メイソン)は若きドロレス・ヘイズ(スー・リオン)への執着に苦悩し、その一方で対抗するクレア・クィルティ(ピーター・セラーズ)の追跡に翻弄される。クィルティはハンバートの罪悪感を体現するキャラクターとして描かれ、セラーズの即興的でシュールな演技が独特の存在感を発揮している。

原作ではハンバートの内面的葛藤が主題だが、映画では視覚的要素とセラーズのユーモアがその表現を補強している。クィルティの一見普通の外見に反する変装劇は観客に笑いと不安を与え、キューブリックの映像表現が「普通」のアメリカの風景に潜む異常性を浮き彫りにする。彼の写真家としての経験は、映画の映像美に大きな影響を与えている。

ロリータ(リオン)は、原作と異なり、より自信と魅力を持つキャラクターとして描かれている。彼女の存在は、ハンバートの執着と矛盾を映し出しつつ、彼女自身も傷つけられる対象として映る。映画はナボコフの脚本を基に制作されながらも、原作のダークで倒錯的な要素を抑制し、よりドラマティックに再構築されている。

批評家の評価は分かれた。一部は映画が原作に比べて過度に抑制的だと批判し、他方でその抑制を称賛する声もあった。特に、セラーズとメイソンの対比は高く評価されたが、即興演技を好まなかったメイソンや孤立感を抱いたシェリー・ウィンタース(シャーロット役)など、撮影現場では摩擦もあった。

セラーズが演じたクィルティは映画の核として機能し、彼の奇妙な魅力が観客を引き付ける一方で、不安や違和感を植え付けている。ハンバートは自身の理想化した「愛」を追求しながらも、その愛が破壊的で自己中心的なものであることを隠しきれない。この歪んだ「愛」はナボコフの小説の核心であり、ハンバートが傷つけ続けるロリータとともに描かれている。キューブリックはその複雑な感情を巧みに表現した。

ロリータのキャラクター描写は批判も呼んだ。一部の批評家は、映画版のロリータが原作ほど「ニンフェット」としての魅力を持っていないと述べたが、リオンの演技は14歳という年齢において非常に印象的である。彼女の普通さとセクシュアルな魅力のバランスは、ハンバートの視線による異常性を際立たせる役割を果たしている。

この映画は、美学的、技術的には高く評価されながらも、道徳的議論を引き起こしてきた。キューブリックは写真家としての視点や正確な照明・構図を用い、物語の残酷さと儚さを際立たせた。また、セラーズの即興的なユーモアと演技によって、作品全体に超現実的な雰囲気をもたらしている。

ナボコフが完成品に満足しなかったとしても、「ロリータ」は議論の対象であり続ける。キューブリックとセラーズの個性が色濃く反映されたこの映画は、愛、欲望、道徳に関する永続的な問いを観客に投げかける作品として、時代を超えて評価されている。