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Tyler, The Creator IGOR

※現在記事を改定中です。 解説 タイラー・ザ・クリエイターの『IGOR』は、彼の音楽キャリアにおける大きな進化…

※現在記事を改定中です。

解説

タイラー・ザ・クリエイターの『IGOR』は、彼の音楽キャリアにおける大きな進化を象徴するアルバムだ。このアルバムは、2019年5月17日にリリースされ、数週間前にSNSで4つの断片が公開されたことで注目を集めた。『IGOR』では、カニエ・ウェストやチャーリー・ウィルソン、シーロー・グリーンなど、名だたるアーティストが参加しながらも、彼らはクレジットされていない。アルバムのテーマは愛の物語に基づいており、熱烈な恋からその終焉を描き、最終的には関係の終わりを受け入れ、友人として残ることを模索する内容になっている。

『IGOR』は、タイラーにとって意図的にラップアルバムとして定義しない作品だ。このアルバムのプロダクションは、ヒップホップの枠を超えており、サウンドやキャラクターの描写においてジャズやR&Bの要素が強く反映されている。ヒップホップやR&Bの伝統的な要素も見られるが、タイラーの成長とともに、彼は感情を率直に表現し、サウンドには以前にも増して深みがある。また、彼はフィーチャリングアーティストを明記せず、コラボレーションの影響を過度に強調しないことで、アルバムへの集中を維持している。

特に「EARFQUAKE」や「GONE, GONE/ THANK YOU」、「A BOY IS A GUN」のようなトラックでは、タイラーの音楽的進化が顕著であり、彼のプロデュース能力が一層高まっている。これらの曲では、ソウルフルで魅力的なサウンドと共に、タイラー自身の感情が丁寧に描かれている。「A BOY IS A GUN」では、愛する人が「銃」のような存在であり、感情の不安定さを表現する様子が印象的だ。

『IGOR』はまた、タイラーの声の使い方が特にユニークで、甲高いトーンで感情を表現する姿が、このアルバムの最大の特徴となっている。タイラーが非常に個人的なテーマを探求し、同時にコラボレーションを重視している点は、音楽に新しいアプローチをもたらしている。

全体として『IGOR』は、タイラー・ザ・クリエイターが以前の作品のアグレッシブな側面から卒業し、成熟したアーティストとしての一貫した表現を完成させた証拠である。このアルバムは、音楽的にだけでなく感情的にも深い意味を持ち、ファンからの共感を得て大きな成功を収めた。

※YouTube動画の楽曲の一部はアルバム収録版と構成が異なります。

1.IGOR’S THEME

 リル・ウージー・ヴァートとソランジュをゲストに迎えたアルバムの序曲。不安定なメロディーと音のコラージュが本作はポップでありながら感情を繊細に捉えた傑作であることを定義する。

2.EARFQUAKE

 プレイボーイ・カーティとのコラボ曲であり、アルバムの中でもとりわけ人気が高い。タイトルは曲を書いていた際に地震が起きたことからインスピレーションを得たもの。曲中のfaultは「断層」と「過失」の二重の意味で使われる。ロマンチックなメロディーやピアノの伴奏でキャッチーな曲になった。

3.I THINK

 恋に落ちたことを明確に語るディスコ調のリズミカルなトラック。ソランジュのコーラスとシンセサイザーでより綺麗に整っている。前曲のアウトロの数字に続く「4」とタイラーが好む「スケート」が度々挿入される。

4.EXACTLY WHAT YOU RUN FROM YOU END UP CHASING

 コメディアンのジェロッド・カーマイケルによる朗読。以降の楽曲で起こることを予感させる。

5.RUNNING OUT OF TIME

 シンセサイザーが大いに活用され、バラエティに富んだサウンドを楽しめる。切羽詰まった歌詞やレーシングカーの音が緊張感を高めてゆく。

6.NEW MAGIC WAND

 不穏なビートに始まり嫉妬と怒りの感情が爆発するトラック。曲中でタイラーは恋人の元カノを「新しい魔法の杖」で消し去る考えを語り、同時に恋人と別れることへの恐怖も歌う。

7.A BOY IS A GUN*

 恋人を銃に例えて危険性を語る。曲風はカニエ・ウエストの『Yeezus』を彷彿とさせる。タイトルはリュック・ムレ監督映画『ビリー・ザ・キッドの冒険』の英題「A Girl is a Gun」から。少年ソウルグループのポンデロッサ・ツインズ・プラス・ワンの『Bound』から一節を引用。これもカニエ・ウエストの『Bound 2』からの影響がみられる。

8.PUPPET

 恋人の従属状態であることを操り人形に例えて表現。カニエ・ウエストが一節を歌う。

9.WHAT’S GOOD

 スロウタイをゲストに加えた二部構成の曲。ファズの効いたベースが支える歪んだサウンドが特徴。これまでの楽曲と違い、タイラーが全編にわたってラップしている。

10.GONE, GONE / THANK YOU

 一転して軽快な雰囲気になった二部構成の曲。シーロー・グリーンがサビを担当。恋人への別れと感謝を伝える。曲の終盤には山下達郎の1998年のポップソング「Fragile」を引用。

11.I DON’T LOVE YOU ANYMORE

 前曲のポジティブさから変わり、恋人への想いを手放そうとする必死な様子が描かれる。

12.ARE WE STILL FRIENDS?

 ファレル・ウィリアムスとジャック・ホワイトが参加。かつての恋人に友人関係を維持できるか尋ねる。アル・グリーンの『Dream』がサンプリングされている。