解説

タイラー・ザ・クリエイターの最新アルバム『CHROMAKOPIA』は、彼の8枚目のスタジオアルバムであり、従来の2年ごとのリリースサイクルを破った革新的な作品である。このアルバムは、成熟したタイラーが自己を率直に表現し、人生の困難や成長を探求した内容となっている。

『CHROMAKOPIA』では、タイラーはペルソナの使用を排し、キャリアの総決算とも言えるアルバムに仕上げている。「SORRY NOT SORRY」のミュージックビデオで過去のキャラクターと決別したことが象徴的であり、自己の内面と向き合う姿勢が鮮明になった。タイラーは、父親になることへの不安や物質主義の影響を直接的に扱い、成熟した大人としての苦悩を描き出している。

アルバムのティーザーは2024年10月16日に「St. Chroma」で公開され、翌日には発売日とアートワークが発表された。全ての楽曲をタイラー自身が作詞・作曲・編曲し、10月21日にリードシングル「Noid」、その後に「Thought I Was Dead」がリリースされた。これらの楽曲は、アルバムのテーマを象徴するものであり、彼の一貫した高い音楽性を示している。

本作の背景には、タイラーの過去のキャリアが色濃く反映されている。2017年の『Flower Boy』以降、彼はプロダクションと歌詞において著しい成長を遂げた。本作も例外ではなく、感情を率直に描き出し、彼の人生の複雑性を深掘りしている。「Rah Tah Tah」では、自信に満ちたラップを披露し、成熟と自己探求の両方を追求する姿勢が明らかになった。

アルバムは芸術性と物語性に秀でており、ボウイ風のキャラクター「セイント・クロマ」が登場するが、楽曲は直接的なテーマを持ち、より人間的な告白が主体となっている。楽曲「Hey Jane」や「Tomorrow」では、親になることへの恐怖や老いについて考察し、「Noid」では有名税や名声への懐疑が描かれている。母親であるボニータ・スミスの言葉もアルバムに散りばめられ、タイラーを鼓舞する重要な要素として機能している。

過去作との比較では、『CHROMAKOPIA』は彼のキャリアの集大成であり、多層的でまとまりのある作品である。アルバム内には「Sticky」や「Judge Judy」のような多彩なトラックが含まれ、これらは彼の幅広い才能を示している。ゲスト出演者には、Lil Wayne、GloRilla、Sexy Reddが名を連ねており、タイラーの多様性とコラボレーション能力が発揮されている。

タイラーは自己と他者の関係性を通して作品を深化させており、特に「Like Him」では母親との複雑な関係が描かれている。このようなテーマはアルバム全体を通じて一貫しており、リスナーにタイラーの心情を伝える力強いメッセージ性を持っている。彼の被害妄想や孤独感も散りばめられているが、それらが深い音楽性と調和している。

『CHROMAKOPIA』はタイラーの才能を裏付ける傑作であり、視覚芸術性、音楽性、そして物語性のいずれにおいても頂点を極めた作品として評価される。彼は依然として現代ヒップホップの先頭を走り続ける存在であると断言できる。

トラックリスト

1 St. Chroma
2 Rah Tah Tah
3 Noid
4 Darling, I
5 Hey Jane
6 I Killed You
7 Judge Judy
8 Sticky
9 Take Your Mask Off
10 Tomorrow
11 Thought I Was Dead
12 Like Him
13 Balloon
14 I Hope You Find Your Way Home