
解説
Tyler, The Creator の7枚目のスタジオアルバム『CALL ME IF YOU GET LOST』は、これまでの作品の進化の総括であり、音楽的探求と自己表現の集大成となっている。2021年6月に発表された本作は、アルバムリリース前の独特なプロモーションキャンペーンや、ホストを務めたDJ Dramaが2000年代ミックステープ文化への敬意を捧げている点でも注目を集めた。
批評家たちは、このアルバムを彼の過去作品すべてを統合する試みとして評価している。シンセポップからソウル、ハードヒップホップまでの幅広いスタイルを、ジャンルを超えた大胆な融合で見事に仕上げた。本作はタイラーの過去のアルバム、『Goblin』のエネルギー、『Flower Boy』の繊細さ、『IGOR』の洗練を一つにした、ジャンルを超越した作品だ。
収録曲には、ストレートなヒップホップの攻撃性(「LUMBERJACK」「MANIFESTO」)と、内面の繊細さや感情的なテーマ(「WUSYANAME」「WILSHIRE」)が共存している。特に「Sweet/I Thought You Wanted to Dance」では、多様なジャンルが1曲の中で流れるように切り替わり、その音楽的技巧が際立つ。
アルバムのプロモーションでは、新たな別人格「Tyler Baudelaire」としてタイラーが登場し、豪華で詩的なイメージを具現化。このキャラクターは、アルバムのテーマに沿った贅沢さや自由を象徴するものであり、リスナーを物語の一部に引き込む効果を持っている。
プロダクションの面でも、本作は音楽的洗練の極みである。シームレスなトラック間の移行、時折挿入されるフルートモチーフ、特に「SAFARI」のプールサイドを思わせる軽快なサウンドなど、音楽自体が物語を語るように設計されている。一方で、DJ Dramaの過剰なナレーションは、一部のリスナーにとって冗長に感じられるかもしれない。
本作はまた、タイラーの進化するアーティスト像を改めて証明している。デビュー当時の挑発的な態度や論争を超え、タイラーは今や、自身の感情やセクシュアリティを探求するアーティストとなった。批評家たちは、この変化がタイラーの音楽をより深いものにしていると賞賛している。
2022年、第64回グラミー賞で「最優秀ラップアルバム賞」を受賞したことは、このアルバムが持つ文化的・音楽的な価値を裏付けるものだ。『CALL ME IF YOU GET LOST』は、音楽業界だけでなく、幅広いリスナーに対するタイラーの影響力を再確認させる一作であり、アーティストとしての自由と自己再定義の精神を示している。
トラックリスト
1 SIR BAUDELAIRE
2 CORSO
3 LEMONHEAD
4 WUSYANAME
5 LUMBERJACK
6 HOT WIND BLOWS
7 MASSA
8 RUNITUP
9 MANIFESTO
10 SWEET / I THOUGHT YOU WANTED TO DANCE
11 MOMMA TALK
12 RISE!
13 BLESSED
14 JUGGERNAUT
15 WILSHIRE
16 SAFARI

