解説

フランク・オーシャンのアルバム『Blonde』は、ポップ音楽の歴史における極めて革新的で深遠な作品の一つだ。2016年にリリースされた本作は、前年に発表されたビジュアルアルバム『Endless』とセットで、4年間の沈黙を破る形で登場。独自の配信形式、ポップアップショップ限定の物理リリース、そして芸術誌『Boys Don’t Cry』を伴う多層的なプロモーションが、音楽だけでなく総合的なアートとしての存在感を際立たせた。

『Blonde』はビルボード200チャートで初登場1位を記録し、リリース後の数週間で海賊版が230万ダウンロードを記録するなど、熱狂的な注目を浴びた。さらに、リリースから2年後にはRIAAのプラチナ認定を受け、後世にわたる評価を獲得。Pitchforkの2010年代ベストアルバム、Rolling Stoneの歴代最高アルバムランキングにも選ばれた。

本作のタイトルは、「blond」と「blonde」という二つのスペルがアートワークやリストで混在する点が特徴。この差異は、オーシャンの両性愛やジェンダーの流動性を反映していると解釈されている。内容的には、人間関係、家族、自己探求といったテーマを扱い、愛することや愛されなくなること、内省や葛藤を描写。特に「Nikes」や「Ivy」では、オーシャンの幼少期の純粋さを象徴し、それを失ったことへの哀愁を感じさせる。

音楽的には、漂うギターリフやリズムレスのメロディが中心となり、エリオット・スミス、ファレル・ウィリアムス、デヴィッド・ボウイらの影響が色濃い。プロダクションは極めてミニマルで、半数以上の楽曲がドラムレスという実験性がある。同時に、ビヨンセ、アンドレ3000、ジョニー・グリーンウッドら豪華ゲストが名を連ねるも、彼らの存在はサブテキストにとどめ、オーシャン自身のビジョンが全面に押し出されている。

叙情的には、断片的で文脈を拒むスタイルが採用され、過去のノスタルジーや儚い欲望を連想させる。「Ivy」の「もうあの頃の子供には戻れない」という歌詞には、失った無邪気さへの郷愁が込められている。また、「Nights」の構成の多層性や「Futura Free」の終幕的なテーマは、リスナーに孤独や解放感をもたらす。

このアルバムはポップ音楽の枠組みを超え、芸術性と実験性を押し進めた作品として位置付けられる。その雰囲気はローファイ・サイケデリアからサッドボーイ・エレクトロニカ、孤立主義的なフォークまで多岐にわたるが、いずれもオーシャン独自の音楽美学に融合されている。

アルバムのコンセプトは自己愛と自己嫌悪の狭間にある感情を探り、社会のルールや期待からの解放を志向。特に黒人アーティストの役割に挑む作品として『Anti』や『Freetown Sound』と並ぶ意義があり、ポップ音楽における新しいスタンダードを確立した。

この作品はジャンルや規範を超越しており、エリオット・スミスやボン・イヴェールの影響を感じさせる一方、ゴスペルやソウルを再構築した大胆さを備える。批評家は、『Blonde』をポップスターの成功を超えて個人的な芸術性を追求した作品と評価している。特に、シンプルで未完成に見える構成や断片的なメロディ、意図的なミニマリズムがアルバムの美しさを際立たせている。

結果として、『Blonde』はリスナーの記憶や死への執着、儚さと希望を象徴する詩的な作品として高く評価されており、ジャンルを超えたポップ音楽の新しい可能性を切り開いた。

トラックリスト

1 Nikes
2 Ivy
3 Pink + White
4 Be Yourself
5 Solo
6 Skyline To
7 Self Control
8 Good Guy
9 Nights
10 Solo (Reprise)
11 Pretty Sweet
12 Facebook Story
13 Close to You
14 White Ferrari
15 Seigfried
16 Godspeed
17 Futura Free