,

Kendrick Lamar Mr. Morale & The Big Steppers

解説 『Mr. Morale & The Big Steppers』は、ケンドリック・ラマーにとってトップ・ド…

解説

『Mr. Morale & The Big Steppers』は、ケンドリック・ラマーにとってトップ・ドッグ・エンターテイメント在籍中最後のスタジオアルバムで、2枚組としてリリースされた。アルバム制作の過程では、ケンドリックが17年間関わったTDEからの卒業を宣言し、その背景にあるテーマとして、自己認識とセラピーを中心に展開。ケンドリックは自身の心の問題や社会的挑戦を掘り下げる曲を数多く提供し、音楽的には深い内省を試みる一方で、時には自己を批判することもある。特に「Father Time」や「Mother I Sober」では、個人的な過去や家族にまつわる問題をあらわにし、リスナーに強烈な印象を与える。また、「Auntie Diaries」では、トランスジェンダーに対する受け入れの過程を歌い、ヒップホップ界では珍しいテーマにも挑戦している。

アルバムのサウンドは『To Pimp a Butterfly』のジャズからは少し遠ざかり、落ち着いたトーンが特徴。例えば、「Silent Hill」や「Die Hard」ではポップ的要素もあり、アルバム全体にバラエティが感じられる。トラップやドリルビートが使われる一方で、ビートレスなメロディに支えられた「Mother I Sober」や「Crown」などは深い瞑想的な要素を含む。ケンドリックの歌詞はまた、キャンセル文化や資本主義、COVID-19に対して批判的な視点を持ち、それらのテーマを背景にしつつも音楽は哲学的で感情的だ。

アルバムには、ケンドリックがかつて「救世主」的に見られていることへの反駁も含まれており、彼が完璧でない人間であることを強調する。「Savior」では、自己主張が難しい立場に置かれたときでも、批判的な見方から外れることなく、逆説的に自己の課題と向き合う姿が見られる。このアルバムは、ケンドリックがライムだけでなく思想や精神的成長をも問う作品であり、アートとしても社会的、哲学的な対話を促す意義深いものとなっている。

音楽的には、暗いトーンに満ちている部分もあるが、ジョークや皮肉を交えたシーンもあり、「N95」や「Rich Spirit」といった曲ではラマーらしい皮肉やユーモアも感じられる。このように本作は、深い議論を呼びかける一方で、ケンドリック・ラマーがエンターテイメントと内省を融合させた新しいタイプのアルバムとして、広く受け入れられ続けるだろう。

トラックリスト

Big Steppers
1 United in Grief
2 N95
3 Worldwide Steppers
4 Die Hard
5 Father Time
6 Rich (Interlude)
7 Rich Spirit
8 We Cry Together
9 Purple Hearts

Mr. Morale
1 Count Me Out
2 Crown
3 Silent Hill
4 Savior (Interlude)
5 Savior
6 Auntie Diaries
7 Mr. Morale
8 Mother I Sober
9 Mirror