,

Kendrick Lamar good kid, m.A.A.d city

解説 ケンドリック・ラマーのアルバム『good kid, m.A.A.d city』は、西海岸ラップの新たな時…

解説

ケンドリック・ラマーのアルバム『good kid, m.A.A.d city』は、西海岸ラップの新たな時代を築いたヒップホップの金字塔である。このメジャーデビュー作は、リリース直後に全米ビルボード200で2位を記録し、初週売上24万枚超、累計で3×プラチナ認定を受けるほどの成功を収めた。その内容は圧倒的に緻密であり、思春期の不安や葛藤をストーリーテリングを通じて克明に描いた傑作だ。

本作はケンドリックが17歳だった頃の体験を基にしており、カリフォルニア州コンプトンの現実と彼の内面の葛藤が絡み合う構成となっている。冒頭の「Sherane a.k.a Master Splinter’s Daughter」では、祈りの言葉から始まり、少女への欲望が暴力的な現実に翻弄される様子を描写している。さらに、仲間と共に日々の冒険に巻き込まれた若いラマーの視点を再現し、その無邪気さと残酷さが絶妙に交錯している。

「Backseat Freestyle」では若き日の無軌道な快楽主義を語る一方で、「The Art of Peer Pressure」では仲間との付き合いがもたらす内面的な葛藤を掘り下げる。「good kid」と「m.A.A.d city」ではギャングや警察との緊張感を鮮やかに表現し、コンプトンという街の現実を映し出している。クライマックスに位置する「Sing About Me, I’m Dying of Thirst」は、内省的かつ感動的な大作で、死や暴力を経験した人物たちの感情を代弁し、コミュニティへの深い思いを伝えている。

アルバム全体を通じて、音楽、歌詞、プロダクションのレベルは極めて高く、緻密に構成されたスキットやボイスメールが物語を一層引き立てている。また、ドクター・ドレーやドレイクら著名アーティストの参加は、主役のケンドリックを支える役割を果たし、全体の統一感を損なうことはない。「Swimming Pools (Drank)」や「Poetic Justice」といったトラックでは、ポップな要素と深いリリシズムを融合させ、新鮮なラップを実現した。

ケンドリックの声の使い方や言葉遊びのテクニックは、現代ラップの最高峰に位置する。彼は速度を操り、複数の視点を自由自在に切り替えることで物語性を強化している。さらに、アルバムの構造的美しさとリリックの誠実さは、『Illmatic』と比較されるほどの高い評価を受けた。『good kid, m.A.A.d city』は青春の記録であると同時に、ギャング文化や家族の絆といったテーマを探求する深い作品だ。

最終的に、このアルバムはヒップホップにおける時間を超えた重要作品として位置付けられるだろう。各トラックは独自の価値を持ちつつ全体の一部として完璧に機能しており、ケンドリックの才能と誠実なアプローチが結実している。この作品は単なるヒットアルバムではなく、彼のキャリアとヒップホップの進化における真のマイルストーンである。

トラックリスト

1 Sherane a.k.a Master Splinter’s Daughter
2 Bitch, Don’t Kill My Vibe
3 Backseat Freestyle
4 The Art of Peer Pressure
5 Money Trees
6 Poetic Justice
7 good kid
8 m.A.A.d city
9 Swimming Pools (Drank) – Extended Version
10 Sing About Me, I’m Dying of Thirst
11 Real7:23
12 Compton4:08